NY金市場では緩やかながら、下落基調を演じています。7月に入ってからNY金は英国での国民投票におけるEU離脱派勝利を受けて、欧州経済に対する警戒感が強まるなか、上値を追う足取りを演じました。 中心限月である8月限は7月6日には1377.50ドルまで値を上げています。その後、11日にも1,380ドルに迫る動きを見せました。しかしながら、株式市場が上昇場面を演じるなど、リスク回帰の流れが強まったことで12日には大幅安に転じ、前日より21.3ドル安の1335.3ドルでこの日の取引を終えています。 ただ、その後も下降トレンドを維持しているとはいえ、現地26日時点の終値は1320.80ドルに留まるなど、その動きは緩やかなものとなっています。 特に、金市場が下落傾向を強めた12日以降の米国株式市場が強い足取りを演じ、現地20日の取引にかけてダウ平均が9日連続して最高値を更新していたことなど、リスクオンのムードが大幅に強まっていたことが注目されます。 というのも、この状況を鑑みると、現地12日から26日まで金市場は軟調地合いを演じているものの、リスクオンムードが大幅に強まっている割にはその下落幅は限定されていると考えられるからです。つまり、金市場は緩やかに下落しているとはいえ、潜在的には下落に対する強い抵抗があることが窺われるのです。 リスクオンムードの強まりが示すように、英国のEU離脱ショックはすでに市場に織り込まれ、欧州経済に対する見通し不透明感から安全な投資先としての金を求める動きはすでに後退しつつあると考えられます。 また、米国経済に関しても米国経済の回復を示唆する内容の経済指標の発表が続いています。例えば、現地7月8日に発表された7月2日までの週の失業保険申請件数は前週の27万件に対し1万6,000件減少した25万4,000件にとどまりました。さらに、続いて発表された雇用統計においても、6月の非農業雇用数は、2015年1 0月以来の大幅増となる前月比28万7000人増となったことが明らかとされています。 このような強気な経済指標は、米国の追加利上げに向けた準備が整い始めていると見ることができ、そのため金市場にとっては弱気材料視される可能性が高いと考えられます。 それにもかかわらず金価格が1,320ドル以上という、英国によるEU離脱ショック以降の値位置を維持できているのはなぜでしょうか。 その一因と考えられるのが、米国だけで利上げが実施されることにより生じると考えられるドル高に対する警戒感です。 そもそも欧州は景気刺激策を実施する必要があるほど景気に停滞感が強い状況にあります。ちなみに、4月~6月間の国内総生産(GDP)に関してはユーロ圏合成PMIの低下や建設投資の落ち込み見通しなどを受けて、前四半期を下回ることが見込まれています。さらに、7月~9月間に関しては、英国でのEU離脱派勝利を受けて今後の英国とEUの関係の不透明感がイヤ気されて下振れリスクが高まると予測されます。 このような経済情勢を受けて、欧州中央銀行(ECB)は7月21日の理事会での追加金融緩和は見送ったものの、ドラギ総裁は”欧州経済は依然として下振れリスクが大きい”とコメントしており、欧州ではいつ追加金融緩和が実施されてもおかしくない状況が続いています。 つまり、現在の経済情勢は、米国が経済回復感を強めているのに対し、EUは経済の停滞の継続と同時に見通しの不透明感の強まり、という対極的な状態にあるのです。 このような中で米国が利上げを実施すればユーロ安・ドル高の流れが活発化するのは目に見えて明らかであり、いたずらにドル高が進行すれば好調な米国企業の業績悪化を促しかねず、回復傾向にある米国経済も打撃を受ける可能性が高まります。 実際、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長は英国のEU離脱を巡る国民投票前には”米ドルは2014年中盤以降、主要通貨に対し20%もの上昇を記録し、米国の輸出や企業収益、製造業の雇用に悪影響をもたらしてきた”と指摘したほか、”英国民投票後にドルが一段高となれば、米経済を下押しするリスクがある”と発言するなど、ドル高に対する警戒感を明らかにしています。 また、米ダラス地区連銀のカプラン総裁からもFRBはドル高に対してかなり神経質になっている、との指摘が挙がっています。 ドル高はようやく回復傾向を強めている米国経済に水を差しかねず、それを促す追加利上げに対し、FRBは慎重に対応せざるを得ないのが現状といえるでしょう。このようなドル高を回避するFRBの姿勢を受けて、金市場は底意の強い足取りを継続するのではないでしょうか。 【ご注意】本ブログに掲載されている情報の著作権は株式会社日本先物情報ネットワークに帰属し、本ブログに記載されている情報を株式会社日本先物情報ネットワークの許可無しに転用、複製、複写することはできません。
緩やかに下落する金市場はこのまま下落し続けるのか
[紹介元] コモディティレポート | Klug クルーク 緩やかに下落する金市場はこのまま下落し続けるのか