昨年末あたりから降ってわいたように金融庁が問題視しはじめた「国内店頭FX業者のレバレッジ規制」ですが、結局5回の検討会を経て「一律のレバレッジ規制は行われないことが確定」しました。
しかし今回のレバレッジ規制の話が持ち上がる経緯は依然不透明です。
今後は個別の業者に対するストレステストの結果次第でレバレッジの規制が個々に変化することになるため、少なくとも店頭業者の状態がこれまでと同じというわけにはいかなくなりつつあります。
森金融庁長官の退任が終息の理由か
店頭FX業者のレバ規制が降ってわいたのも突然終息したのも、恐らくはこの7月で退任する歴代最強などと呼ばれた「森長官の退任」が少なからず関係しているものと思われます。
この森長官、地銀改革なども声高に叫びスルガ銀行をベストプラクティスなどと自画自賛していましたが、蓋を開いてみれば、単なる不正融資であったわけです。
仮想通貨についても発展を前提に緩い登録制度をスタートさせたところ、初期の仮想通貨取引所はFXの黎明期よりも劣悪な状況になってしまい、業務改善命令の連発ですっかり市場が冷え込むことになってしまいました。
仮想通貨クラスタでは森長官がいたからこそ、ここまで仮想通貨が発展したなどという盲目的な崇拝も進みましたが、結果論から言えば甘い業者管理体制で国内ではまともな市場が形成しないままの状況に陥ってしまったことがわかります。
今回店頭FX業者への規制がいきなり狙い撃ちになった経緯はよくわかりませんが、この金融庁長官の進退問題が絡んで振り上げたはずの拳が珍しく引っ込められたことだけはどうやら間違いなさそうです。
適切なメンバーとも思えない有識者会議
「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」なるものは今回結局4回開催され、上記のようなメンバーが参加することとなりました。
しかしこのメンツを見てみますと法律系の学者などが中心で、FXビジネスに精通している人間がかなり限定されており、どうしてこういう構成になったのかが非常にクビを傾げる内容になっています。
何人かは仮想通貨のビジネススキームを考える時にも登場していたようで、本当にこのメンバーが議論をするのに適切だったのかについては今も大きな疑問が残ります。
第四回目の会議ではこの有識者のレバレッジ規制は「賛成4」「反対1」でほぼ規制本決まりとなりかかりましたし、店頭FX自体を禁止すべきという暴論さえ飛び出すこととなった点は無視できない内容となっています。
国内では店頭FXを中心とするビジネスは5000兆円規模の取引規模になっており、ドル円の動静についても国内の個人投資家が非常に大きな影響を持つようになってきています。
なにより円高時には買い支える代表選手がこうした国内の個人投資家ですから、国の意向にもかなり沿った取引をしているはずなのですが、どうもそうした部分はほとんど評価されずに・・妙なおとり潰し論だけが吹き荒れた感があります。
国内業者のDD方式を問題視する声が出ないのが不思議
国内の店頭FX業者が完全無欠な存在なのかといいますと、この相対取引のバックエンドには不可解な部分が間違いなく存在しているといえます。
ひとつは「DD方式」と呼ばれる社内のディーリングデスクの存在で、顧客と利益相反する仕組みを導入している業者というのは世界広しといえどもほとんど日本だけで、このビジネスモデルは業者のビジネスの不透明感を高めていることは間違いありません。
現状の店頭FX業者というのは概ねディーレイングデスクで以下の4つのオペレーションを行っています。
1)顧客間の同一通貨ペアにおける売買の売りと買いを相殺する
2)顧客の売買に対して業者として反対売買を行う
3)カバー先に対して顧客オーダーをそのまま投げてそこにマージンを加算する
4)顧客オーダーが損失方向にあるときは呑みを行いカバーもなにもしないで静観する
この4つと組み合わせて売買をしているのです。
本来「原則固定」などという狭い通貨のスプレッドなどは現実の市場には存在しない、きわめて架空の取引条件となっていますが、国内業者は上記の4つのアクティビティを駆使して顧客に特別な取引条件を提示していることがわかります。
同一業者内の顧客同士の売りと買いの相殺は「NDD」の「STP方式」を標榜する海外業者でも実際に行われていることですから、これ自体は特別おかしなものとは言えません。
しかし、顧客が作ったポジションが含み損を抱えた場合には業者側が反対売買を行って損失分の利益を獲得すること、ならびになにもしないで呑みの状態を継続させて損失分の証拠金を利益として獲得するのはどうも釈然としない部分といえます。
一般的に国内の個人投資家はその8割がドル円の取引をしており、しかもほぼ半年以内に口座開設をして証拠金投入をしたトレーダーのほぼ9割近くがすべての証拠金を失って相場から退場していくわけです。
なので、カバー先にオーダーを出さなくても放置しておけば投入証拠金のほぼすべてを獲得できるのがこの商売のスキームになっており、ここに呑みの部分が深く関与している疑惑が常につきまとっているのです。
カバー先にオーダーを出さないというのは金融庁でも十分に認識されているはずです。
しかし、業者に対してすべて「DD方式」ではなく、「NDD法式」で利益相反を起こさないよいうに行政指導をするといった動きはこれまでにも一度も聴いたことはないのが現状です。
また海外では実施されている証拠金以上の損失を顧客に請求しない「ゼロカットシステム」も国内の店頭FX業者には特別導入されているわけでもありません。
顧客保護という視点でみて、金融庁が店頭業者に強く行政指導をしているとは感らずしも思えない状況が続いています。
ストレステストで不合格になる業者が出る可能性
今回店頭FX業者で大きく問題になったのが「ストレステスト」の実施状況とその内容です。
たしかに「くりっく365」を運営する東京金融取引所は毎営業日に未収金が発生していないかチェックをしていますが、店頭業者はたった年一回の実施でその差はかなり大きなものになっています。
また店頭業者のうちの5社がストレステストの社内規定を未整備の状況で、名称は明かされていませんが、どうもいい加減な業者が存在することは確かなようです。
金融庁としては今後厳密なストレステストの実施により不適格とみなした業者が顕在化した場合には「個別にレバレッジを下げる」などの指導を行うことを明確にしはじめています。
つまり業者によってはダメの烙印を押されて、レバレッジが10倍以下に規制されることになるということです。
こうなると黙って取引していられいないのが個人投資家で、危ない会社でしかもレバが下がるとなれば当然取引を他に移動させることは明白です。
こうなると資本増強やストレステスト対応で、かなり国内業者は統合される可能性もでてきているといえます。
実際同じ資本系列なのにいくつものFXだけ扱う証券会社が存在したりしているのも事実で、業界最大手のGMOも買収の形でFXプライムという別ブランドの専業会社を保有しております。
どうしてこうしたことが起こるのかについては、顧客にはよく理解できないもがあるのもまた事実です。
国内のFX大手は既に世界最大級の企業規模になっていますが、その多くはFX専業ではなく証券系のCFDなども扱い始めており、気がつくと意外に専業業者というのが少なくなってきている状況でもあります。
今回ひとまず横並びのレバレッジ規制は回避されましたが、この店頭FX業者が国内でどのようになっていくか次第では海外業者を利用するなど顧客の志向もかなり変化することが予想されるだけに、ここからの動向を注視する必要がありそうです。