第358回 世界を変える伊勢志摩サミット(2/3)

 現在の日本経済は、消費税の増税延期ではなく「減税」。最低でも「凍結」が必要な状況なのだ。何しろ、消費税率を5%に戻したところで、それでようやく2013年度と同じ環境になったという話に過ぎない。  また、安倍総理が消費税増税を再び見送った場合、完璧な公約違反になる。当然ながら、総理は説明責任を果たさなければならないわけだが、 「2014年度の消費増税が失敗であった」  ことを、明確に認めることができるかどうかがポイントになる。先のイタリアでの発言のごとく、 「おととしの消費税の8%への引き上げが予想以上に消費に影響を与えたのも事実だ」  といった曖昧な言い方ではなく、デフレ期に消費税を増税したことが「失政だった」と認められるか否かが決定的に重要なのだ。そもそも、総理は2012年6月のご自身のメールマガジンで、 『昨日、社会保障・税一体改革関連法案が衆院を通過しました。 3党合意についての私の考え方は、すでにメールマガジンでご説明した通りです。 報道等ではあまり触れていませんが、現在のデフレ下では消費税を引き上げず、法案には引き上げの条件として名目経済成長率3%、実質成長率2%を目指すという経済弾力条項が盛り込まれています。 つまり現在のデフレ状況が続けば、消費税は上げないということです。 しかし、野田総理のこれまでの委員会答弁は、この点があいまいであると言わざるを得ません。 要は民主党政権を倒し、デフレからの脱却を果たし、経済成長戦略を実施して条件を整えることが大切です。 そして、「その条件が満たされなければ消費税の引き上げは行わないこと」が重要です。 (安倍晋三元総理のメールマガジン(http://www.s-abe.or.jp/mailmagazine  2012年6月27日号より)』  と、書いている。すなわち、2014年度の消費税増税は、自身の持論(しかも、正しい持論)までをも裏切ったという話なのである。 「デフレ下の消費税増税は間違い」を政府が認め、国民に共有されない限り、将来的に「また増税」という話になってしまい、我が国の経済低迷は継続することになるだろう。 政策的な失敗は、もちろん責められるべきである。だが、それ以上に最悪なのは「間違いを間違いとして認めない」ことだと思うのだ。 消費税増税の見送りに加え、「全体」としての緊縮財政路線を転換できるかもまた、極めて重要だ。 内閣官房参与を務める、京都大学大学院の藤井聡教授が、5月11日、自民党の「アベノミクスを成功させる会」(会長・山本幸三衆院議員)に「所得ターゲット」政策の採用を宣言するよう求める提案した。 安倍政権が掲げる「2020年までに名目GDP600兆円」を達成するために、藤井教授が提案した五項目は、以下の通りである。 ●増税延期 ●政府は「所得ターゲット」政策を改めて宣言すべし ●政府はデフレ完全脱却こそが最大の財政健全化策、と宣言すべし ●「脱出速度」確保のための、3年限定の積極財政を ●デフレ脱却後は、プライマリーバランスでなく政府の負債対GDP比を基準とした中立的財政を 2020年までに名目GDP600兆円という目標について、 「そんな目標、達成できるのか!?」 と思われた読者がいるかも知れないが、実はたいした目標ではない。2015年の名目GDPが500兆円だとすると、毎年4%の名目GDP成長率を確保できれば、2020年に名目GDPが600兆円を超える。 実質ではなく、名目で4%なので、「実質GDP成長率+インフレ率(GDPデフレータベース)」で構わない。 例えば、GDPデフレータベースのインフレ率が2%だった場合、実質GDP成長率が2%で、名目GDP4%の拡大になる。 現在、日本は生産年齢人口比率が下がり、超人手不足になりつつある。政府が消費税増税を取りやめ、デフレギャップを埋める財政出動を10兆円超の規模で「継続的」に打ち続けていけば、我が国は完全雇用に至り、名目GDPは600兆円にも手が届く。GDPが増えれば、国民の給与所得も拡大する。 「給料が増えても、物価上昇しているから、豊かになっていないのでは?」 と、思われたかも知れないが、「実質GDP成長率」分は豊かになる。実は、実質賃金の上昇とは、マクロ的には実質GDPとイコールになるのだ。

[紹介元] 三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」 | Klug クルーク 第358回 世界を変える伊勢志摩サミット(2/3)