さて、本連載は残り四回で最終回を迎える。最終回も近いということで、改めて日本経済の成長のボトルネック(制約条件)となっているデマゴギーと、それを否定する「正しい話」について書いておきたい。 筆者は言論活動初期から「いわゆる国の借金問題のウソ」について、切り口を変えつつ、繰り返し「正しい話」を主張し、拡散に努めてきた。当時は、 「”国の借金”ではなく、Government Debt(政府の負債)という呼称が正しい(日銀は「政府の負債」としている)」 「日本政府の負債(主に国債)は100%日本円建て」 「日本国民は”政府の負債”の債務者ではなく、債権者」 「日本銀行が国債を買い取ると、政府の負債が実質的に消滅する」 といった、財政に関連する「正しい話」について、誰一人語ろうとしなかった。いや、語ろうとした人はいたのかも知れないが、筆者は知らない。 何しろ、当時はバランスシート(貸借対照表)の概念を、国民経済の説明の際に活用する人もほとんどいなかったのだ。国の借金ならぬ”政府の負債”という貸方の科目について語る以上、バランスシートの概念は必須だと思うのだが。 というわけで、筆者は以下に代表される様々な図を活用しつつ、「正しい話」を根気よく、発信し続けてきたわけである。 【図1 日本国家のバランスシート(15年12月末速報値、単位:兆円)】 出典:日本銀行「資金循環統計」 【図2 日本国債所有者別内訳(15年12月末速報値、単位:兆円)】 出典:日本銀行「資金循環統計」 【図3 日銀保有国債等と日銀以外が保有する国債等(単位:億円)】 出典:日本銀行「資金循環統計」 すでに正しい話を理解している読者からすると、 「なぜ、あんなウソに騙されていのだろうか」 と、考え込んでしまうかも知れないが、理由は日本人が「情報の読み方」の訓練を受けていないためだ。例えば、「言葉の定義」「相対化」「ブレイクダウン(細分化)」等、情報分析の基本すら知らないため、 「国の借金の定義は何なのだろうか?」 と、考えることすらないわけだ。完全に思考停止に陥り、「国の借金で破綻する」「国の借金で経済成長できない」などと、意味不明な煽りに影響され、間違った政策を支持し続けてきたのが、1995年以降の日本国民だ。
第357回 正しい話(1/3)
[紹介元] 三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」 | Klug クルーク 第357回 正しい話(1/3)