本連載は残り三回で最終回を迎える。 筆者は13年10月1日に、14年4月の消費増税が決まった瞬間から、 「このままでは日本は国民経済の崖に突っ込む」 と、警告することを続けてきた。実際、日本経済は15年4-6月期、7-9月期と二期連続でマイナス成長を記録し、リセッションに突っ込んだ。その後も、経済が成長軌道に乗ることはなく、安倍政権は15年10月に予定されていた消費税10%引き上げを、17年4月に延期。 とはいえ、14年消費税増税の悪影響はあまりにも大きく、日本経済はマイナス成長が常態化してしまった。現在の経済環境で、17年4月の消費税増税など、「現実を見る目」を持っているならばできるはずがない。 5月14日、日本経済新聞に、「消費増税再び延期 首相、サミット後に表明 地震・景気に配慮」という記事が掲載された。 『2016年5月14日 日本経済新聞「消費増税再び延期 首相、サミット後に表明 地震・景気に配慮」 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS13H56_T10C16A5MM8000/ 安倍晋三首相は13日、2017年4月に予定する消費税率10%への引き上げを再び延期する方針を固めた。国内外の経済に先行き不透明感が広がるなか、4月の熊本地震による景気への影響も出ている。増税すれば政権の最重要課題であるデフレ脱却がさらに遠のくと判断した。今月26~27日に開く主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の議論などを踏まえて表明する見通しだ。(後略)』 後略部に書かれているが、総理が与党幹部に増税見送り方針を伝え、政府内で増税の1~3年の延期の検討に着手したということである。 上記が報道された後、例により安倍総理や菅官房長官が記事を否定する発言をしたことも報じられたが、 「新聞記事で事前に情報を大々的に流し、要人が発言で否定しつつ、何となく織り込んでいく」 という、安倍政権のいつものパターンだろう。TPP交渉参加でも、13年10月の14年増税決定の際にも、全く同じ手法が使われた。 日経の記事では、総理が増税再延期を決めた最大の理由が「経済」となっている。欧州歴訪中の5月2日、総理は、イタリアで、 「おととしの消費税の8%への引き上げが予想以上に消費に影響を与えたのも事実だ」 と、発言した。 国内ではなく、国外で発言することで情報を織り込むという手法も、安倍総理は得意としている。国内では、官僚やブレーンや取り巻きがいるため、発言を歪めざるを得ない、という話なのかも知れない。 いずれにせよ、5月18日に発表になる16年1-3月期のGDP成長率が相当によろしくないのは間違いなさそうだ。当然、総理にはとっくに情報が入っているだろう。 さて、増税延期のポイントを幾つか取り上げると、まずは「消費増税再び延期」の具体的な中身だ。一年延期か、数年延期か、あるいは「凍結」「減税」にまで踏み込めるか。日経の記事では、「最大3年の延期」ということになっている。 もっとも、ただの「延期」では、現在の停滞状況が続くことになってしまい、消費が回復することはないだろう。結局、我々日本国民は、 「将来的に消費税が増税される」 という予想の下では、消費を拡大することはなく、むしろ「増税に備えて」預金を増やすのだ。(無論、増税直前の駆け込み消費「のみ」はあるが) 実際、2014年の消費税増税後、日本国民の消費性向(所得から消費に回す割合)は、75%から72%に下がった。増税で実質賃金を引き下げられ、かつ「将来、またもや増税」という話では、国民が預金の割合を増やすのも無理もない。
第358回 世界を変える伊勢志摩サミット(1/3)
[紹介元] 三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」 | Klug クルーク 第358回 世界を変える伊勢志摩サミット(1/3)