第358回 世界を変える伊勢志摩サミット(3/3)

というわけで、安倍政権は名目GDP600兆円を目標に掲げた以上、藤井教授の五提案を受け入れ、「財政出動による需要創出」という当たり前の政策を推進する必要がある。 そして、日本政府が財政出動に舵を転じる絶好の機会が訪れた。すなわち、伊勢志摩サミットだ。 5月26日、27日に開催される伊勢志摩サミットにおいて、主要七カ国は、果たして「協調的な財政出動」に乗り出せるのか。  少なくとも、アメリカ、フランス、カナダ、イタリアの四カ国は、日本に同調し(やる、やらないは別として)財政出動に同意するだろう。残る二カ国、特に「ドイツ」が、どこまで譲歩するのか。  また、そもそもフランスやイタリアは、ユーロ・EU加盟国である。両国ともに金融の主権はなく、財政主権も制限されており、大々的な財政出動など、現実問題として可能なのか。 さらに、アメリカは大統領選挙の真っただ中であり、レームダック化したオバマ政権に、財政出動を主導することができるのか。  カナダはやるというか、すでに始めている。カナダは昨年10月の総選挙で、 「公共投資によるインフラ整備」 「財政赤字拡大を三年間容認」 「富裕層増税と中間層減税」  を訴えた自由党が勝利し、堂々と「ケインズ的政策」に舵を切ったのである。すでに、自由党のトルドー政権は、インフラや社会保障に関する支出を大幅に拡大した予算を組んだ。  そして、我が国。日本。  日本経済新聞が「消費増税再び延期 首相、サミット後に表明 地震・景気に配慮」と報じたことを考えると、16年1月―3月期は「うるう年」のプラス効果を入れてもマイナス成長に陥っている可能性がある。特に、3月の実質消費の対前年比▲5.3%は強烈であった。  実質消費が5%マイナスになるということは、この減少率が継続すると、我が国は一年間に約15兆円もの消費下押し圧力を受けることになってしまう。実質GDPで見れば、3%の縮小圧力だ。  しかも、熊本・大分地震の影響で4-6月期の生産にも悪影響が生じている。この状況で、消費税増税の見送りや、大規模財政出動に踏み出せないのでは「政治」ではない。  サミットまでの二週間のポイントを、以下に整理しておこう。 (1)消費税再増税の判断:予定通り実施か、延期か、凍結か、減税か?  無論、最も望ましいのは「消費税減税」ではあるが、現実には「延期」が濃厚であり、「何年の延期なのか」が焦点になってくるだろう。 (2)財政出動の規模と質と期間  現在の日本にとって必要なのは、10兆円規模のインフラ・技術への投資を中心とした財政出動を複数年間(最低でも三年)は継続することだ。幸いなことに、現在の日本には、リニア中央新幹線や北陸新幹線、ILCなど、政府が支出しなければならない「プロジェクト」が複数、存在する。 (3)先進七か国が、どこまで財政出動の拡大にコミットするか (4)財政健全化目標の「修正」  プライマリーバランス黒字化などというナンセンスな目標を捨て去り、政府の負債対GDP比率という真っ当な(相対的に)目標に変更できるのか。  特に、重要なのは実は(4)で、財務省や財政至上主義の政治家たちは、未だに、 「プライマリーバランスを黒字化させなければならないから、予算は増やせない」  と、経世済民を無視した財政均衡主義の教義を貫こうとしている。結果、熊本・大分地震の復興予算すら、「国債金利のマイナスで浮いたおカネ」を回すという、呆れ返る経済政策が続いている。  なぜ、普通に建設国債を発行しないのか。もちろん、プライマリーバランス目標に引っかかってしまうためだ。  (4)の問題を何とかしなければ、結局は「増税+財政支出削減」という既定路線を覆すことは困難である。   いずれにせよ、世界が変わるサミットが間もなく開催される。今回が、安倍政権にとってはもちろん、日本国民にとってすら、我が国がデフレから脱却するためのラスト・チャンスかも知れない。

[紹介元] 三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」 | Klug クルーク 第358回 世界を変える伊勢志摩サミット(3/3)